以前、デモクラティックスクールは誰にでも合う教育ではないということをお伝えしました。
これはどちらかというと、「合う子はどういう子?」ということを主眼に置いた記事ですが、デモクラティックスクールを成立させるにはいくつか最低限保証されるべき条件があると思います。
デモクラティックスクールは21世紀型の学び、と言われることもあり、一昔前には成立しえなかった教育なのです。
実際、歴史は比較的浅く、アメリカでサドベリースクールが設立されたのは1968年のことですから、社会情勢も比較的落ち着いていた時期だと言えます。
世界で戦争が起こっている今だからこそ、民主主義や子どもの権利を重視するサドベリースクールが必要、という考え方はできますが、世界中で戦争が起こっていた時代に成立するのは難しい教育ではあります。
そのような社会的安全性も一つですし、他にもいくつかスクール成立の条件がありそうなので、考えてみたいと思います。
多様な生き方が社会的に保障されている
前回の記事でも書いたように、サドベリースクールはカリキュラムやテストがないことから、何かの能力を保証するスクールではありません。
このことから、将来が心配という意見がよく言われます。大学にも確実に行けるわけではありせんし。
しかし、今の時代であれば学歴関係なく活躍している人はごまんといますし、制度的な最低限の保証がされているので、どんな形であれ生きていけます。
学歴社会、年功序列、新卒一斉採用というシステムが固く確立されていた時代には、デモクラティックスクールを卒業した子は今より社会の中で活躍しにくいし、職業の選択肢も絞られていたと思います。
そうなると、デモクラティックスクールを選ぶ家庭は今よりぐっと少なかっただろうし、選ばない理由も納得できます。
だから、日本よりも社会保障制度が薄いと聞くアメリカ発祥なのはすごいと思います!
社会全体が安全である
デモクラティックスクールは、個人の自由・権利が保障されていることから、「いつ来てもいいし、いつ帰ってもいい」という方針ですし、責任を自分で負うことから「自分の安全は自分で守る」という原則もあります。
これらは社会が安全でなければ成立し得ません。
日本のデモクラティックスクールでは未成年だけでスクールから出て行き帰りしたり、買い物に行ったりします。
これは個人の権利としては大事なことですが、子どもだけで出かけることが危険な地域ではできないことです。
だから、海外のデモクラティックスクールはこの辺りどうされているのか、気になるところです。
多様な価値観が認められる
デモクラティックスクールでは「年齢関係なく対等である」という原則があります。
子どもたちはスタッフの言うことを聞かなければいけないことはないし、年少者だからと言って責任を負わなくて良いわけではありません。
このような考え方は、かつて家長制度があった日本や、男性の方が優遇されていた時代には成立することが難しい教育だったと思います。
男尊女卑が当たり前の世の中ではその価値観を疑わないだろうし、保護者も受け入れ難いからです。
そもそも多様な価値観が認められる現代でもデモクラティックスクールに通う子は非常にマイノリティですから、今ほど価値観が広がっていない時代には非難されることもあるだろうし、相当厳しいと思います。
必要な情報にアクセスできるか
ここが21世紀型の学びと言われるゆえんなのではないでしょうか。
デモクラティックスクールでは子ども自身が学びを決め、スタッフは求められた時のみサポートします。
スタッフ自身でサポートできない時には代わりにサポートできる人を探してくることも、スタッフの大事な仕事です。
今はインターネットが普及していることによって、世界中の情報にアクセスでき、ほとんどのことは学べますが、技術や情報が独占されており、誰かに教わることが貴重だった時代には好きなことを学ぶことは難しかったと言えます。
反対に、現代は情報が溢れすぎているが故に、子どもが何を選ぶかが重視されていると思います。
「子どもが好きなことを学ぶ」というのは、現代に生きる私たちだからできることです。そういう意味では1968年に始まった当時も自由な学びを確立するのは難しかったことでしょう。
家庭の教育力も必要
これは必須の条件ではないかもしれません。
でもデモクラティックスクールは公教育の学校と違って、学校に任せといたらいいわけではありません。
なぜなら、子どもが何を学ぶかは子ども自身に任せられているため、退屈な時間をたくさん過ごしたり、ゲーム以外しないということはあり得るからです。
だからこれが気になる家庭はその家庭の考え方で教育することが必要ですし、そのために家庭でも親子で対話することが欠かせないと思います。
スクールの方針の理解は必要だし、家庭とスクールで方針が全く異なるとうまくいかないと思いますし、家庭は家庭の方針で進めたらよいということです。
子どもの環境基盤が大事
このように見ていくと、社会や家庭といった子どもの基盤が安定していることがデモクラティックスクールの前提となっていると思います。
これはデモクラティックスクールにだけ当てはまることではなく、自由な学び全般に言えることだと思います。
権威的な官製の教育はどんな状況であれ成立し得ると思いますが、自由な学びは民衆の声から始まるものなので、それが支持される環境にないと難しいと思います。
そう思うと、今は自由に活動できる状況にはありますが、もっと社会や行政からのサポートが必要だと思います。
そうすることで、スクールや子どもの基盤が安定するのではないでしょうか。
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